空海に学ぶ仏教入門
三界の狂人は狂せることを知らず、四生の盲者は、盲なることを識らず。生まれ生まれ生まれ生まれて、生の始めに暗く、死に死に死に死んで、死の終わりに冥らし。(34)
仏教が考える苦しみの原因は、我執、すなわち実体視にあります。私たちの心に、欲しいもの/嫌なものはありありと映っており、私たちはそれを手に入れ/排除しようとします。しかしそれらは心にありありと映ってはいますが、それを欲しいもの/嫌なものと捉えているのは私たちです。(35)
凡夫酔狂して、吾が非を悟らず。但し婬食を念うこと、彼の羝羊のごとし。(52)
1 異生羝羊心(いしょうていようしん)
欲望のままにふるまい悪をなす心
2 愚童持斎心(ぐどうじさいしん)
世俗の善悪を守る段階
3 嬰童無怖心(ようどうむいしん)
実体視を前提とした、病気でいえば症状を和らげる段階
「異生」「愚童」「嬰童」・・仏教でいう凡夫の別称
4 唯蘊無我心(ゆいしきむがしん)
病気でいえば根治を目指す段階
5 抜業因種心(ばつごういんしゅしん)
十二支縁起を観想することによって、無明を断ち切り、独覚仏を目指す
6 他縁大乗心(たえんだいじょうしん)
実体のように映っている対象はすべて心の中の現れで、心のみが真実であると理解する唯識の心。
瞑想中に空を体験すると、瞑想後、自他を区別する心が消え・・・一切衆生を苦しみから解放する仏陀の境地を目指す
7 覚心不生心(かくしんふしょうしん)
苦しみの原因は実体視ですから、苦しみからの解放とは、それまでの間違った捉え方がなくなることで、輪廻の外に目指す解放の境地が本当にあるわけではありません。
それを理解したのが煩悩即菩薩「色即是空、空即是色」の境地です。
8 一道無為心(いちどうむいしん)
空を体験した聖者である菩薩の境地
9 極無自性心(ごくむじしょうしん)
仏陀が出現したことを聞きつけた菩薩たちがさまざまな世界から集まり、その中の一人の菩薩が仏力をうけて仏陀に代わって教えを説く。
10 秘密荘厳心(ひみつしょうごんしん)
密教は言葉を超えた境地を直接、師から弟子へと伝える。灌頂
(41~44)
大乗仏教の説く空とは、この有ると無いの両極端を離れたものだ、というのが伝統的な説明です。(81)
本当の空はあるでもなく、無いでもなく、分別と無分別を超越している。どうして空を分別できよう。諸法の空を知るのでなければ、涅槃を知ることはできない。それゆえ、空を理解して、断・常の二見を離れるべきである。(「大日経」住心品)(86)
第三住心で福徳を積むことや瞑想の三昧による天界の安泰が輪廻の外ではないとされたのは、それが原因によって作られたもので、原因が尽きれば失われる、一時的で有限なものでしかないからです。
それは仏教の教えにも適用されるはずで、もし解脱やさとりが目指され、得られるものだとしたら、それは天界の安楽と同様に、一時的で有限なものになってしまうはずです。(131)